『アルブレヒト・デューラー版画・素描展』
『アルブレヒト・デューラー版画・素描展:宗教/肖像/自然』
@国立西洋美術館



僕としたことが、この展覧会の存在にまったく気がついていなかった。
年が明けて、ふとした折にこれを知ったときは大変焦った。

会期は1月16日まで。
一方、僕は引越しの荷物を14日に送り出して、16日に東京で受け取る予定。

「おお、間に合う!」

・・・ということで、引越しの合間に時間を捻出して出掛けてきた。

****

アルブレヒト・デューラー(1471-1528)は、
生まれ故郷のニュルンベルクを中心に活動したドイツの画家である。
その、「初期から晩年までの重要な作品を網羅した大版画展」というだけあって、
実に満足度の高い展覧会だった。

出品作品は全部で157点もあり、そのほとんどすべてが版画である。
副題にあるとおり、それが「宗教」「肖像」「自然」という三つのカテゴリーに分けて
展示されているのだが、これはデューラーの芸術理念を踏まえたもの、であるらしい。

「宗教」では、デューラーが何度か作成したという、
キリストの受難をテーマにした連作がメイン。

「肖像」では、文字通りいくつかの肖像画に加えて、
神聖ローマ皇帝マクシミリアン一世によって企画され、デューラーも参画したという
巨大な版画作品「凱旋門」(おおむね縦横3メートル!)など。

「自然」では、長らく影響を持ち続けたという例のサイの絵や、
『測定法教則』や『人体均衡論』など科学史的にも興味深い著作の一部。

そして最後を飾るのは、「騎士と死と悪魔」「書斎の聖ヒエロニムス」「メレンコリアI」
という代表作三つ・・・いずれも実物を見るのは初めて。
見に行けて本当によかった。

****

ところで、この展覧会ではもう一つ、再認識させられたことがある。
活版印刷のインパクトである。

展示解説によると、デューラーという人はこの新しいメディアにかなり関心を持っていて、
画家として活動するにあたってそれをさまざまに活用しようと考えていたようだ。
また、マクシミリアン一世という人は自分の権威を確立するのに
印刷術を大いに利用しようとしていて、先に触れた巨大な版画作品を企画したり、
デューラーに肖像画を描かせたりしたのだという。
ちなみにエラスムスも同じようなことを考えていて、
それでデューラーにやっとのことで肖像画を描いてもらったのだが、
「自分にあまり似ていない」という理由で出来に満足しなかったのだとか・・・。

実のところ、デューラーは1471年生まれなので、その活動時期はちょうど
活版印刷が広く普及してきた時代に当たっている。
ついでに言うと、これは今回初めて気付いたのだが、
デューラーの二歳年下がコペルニクスである。
どちらの人物の活動も、活版印刷というメディアのことを踏まえないと
ちゃんとは見えてこないだろう、と思う。

それと関連して、ある意味今回の展示で一番面白かったのは、
「北星天図」「南星天図」(1515年)という作品である。銘文には、

「ヨハネス・シュタビウスが企画し
/コンラート・ハインフォーゲルが星図を決定し
/アルブレヒト・デューラーが星図を描いた」

とあるのだが、シュタビウスというのは神聖ローマ宮廷の人文主義者、
ハインフォーゲルはニュルンベルクの天文学者であったらしい。
要するにこの星図は人文主義者と天文学者と技芸家(芸術家)の共同出版事業なわけで、
ある意味いかにもルネサンス、という代物なのである。
このあたりの人々の関わりがどのようなものだったのか、非常に興味深い。

****

今回の展覧会を見てきて、自分はやはりこの画家が好きだな、と思った。
また、前から薄々感じてはいたが、この人物は科学史的にも面白い、とはっきり悟った。
もう少しちゃんと勉強してみようと思う。
自分の好きなものを、自分の科学史に入れたい。
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by ariga_phs | 2011-01-15 23:59 | 斜めから読む
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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