籠る
駒場の人たちとの昼食のあと、夜までほぼずっと、籠っていたのだった。




東大の駒場図書館というところは、学外の教職員に優しい。
事前連絡なしで入れていただけるし、書庫にも自由に入れる。
そんなところは極めて珍しい。

地下2階の書庫には専門的な洋書・洋雑誌が配架されていて、
フロアそのものが施錠されている。
カードキーがなければ入れないのだが、そのカードキーはいとも容易く、
受付で貸していただくことができる(誰でも、というわけではない、念のため)
客観的にはどうなのかと思わなくもないが、主観的には本当にありがたい。

****

その地下2階が好きである。

空調は整っているし、意外なほど明るくて清潔感がある。
可動式の本棚が並ぶ横の、壁際には閲覧スペースがあって、
電源もそこで取れるようになっている。
多くの人は静かに本を読んでいるから、キーボード音には十分
注意する必要があるけれど、パソコンがこうして使えるのはありがたい。
しかも、フロア内にお手洗いまである。
飲食禁止なのを除けば(もちろんこれは当たり前の制限事項だ)、
あまりの快適さに一日ずっと居られる。

博士論文を書くのに、資料をいくつか見る必要があって来たのだった。
本棚から、全集や研究書や古い雑誌を引っ張り出してきて頁をめくり、
訳文を考えつつ文章を書き、文献の情報を注釈する。
本来、人文系の学問スタイルとはこういうものではなかったか、と思う。

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京都で僕が最後まで見つけられなかったものの一つが、そういう場所だった。

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この地下2階が落ち着く理由の一つには、電波が届かない、
ということもあるかもしれない。
たまにつながることもあるけれど、携帯はたいてい圏外である。

つなぐことができない、という状態が、僕を安心させる。
つながれないのなら、余計なことを考えず、自分のことに没頭できる。
つながることが嫌いなのではない。
つなぐことができる、という状態に置かれると、つながろうとしてしまうのだ。
半ば脅迫的に。

Twitterをやらない理由の一つはそれである。
いっそのこと携帯も持たないほうがよいのかもしれない、と思うことがある。

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没頭していたおかげで、一日で仕事はずいぶん進んだ。
たぶん、ここに毎日、朝から夜まで籠っていたら、
それはそれである意味幸せだろう。
しかし別の意味では、不幸かもしれない。

・・・つながりたいのだか、つながりたくないのだか。
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by ariga_phs | 2011-02-04 23:59 | information
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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