隠岐「数学と社会改革」(2010)
隠岐さや香「数学と社会改革のユートピア:
ビュフォンの道徳算術からコンドルセの社会数学まで」
金森修編著『科学思想史』(東京:勁草書房、2010)、127-186頁。



タイトルだけだと何の話かわかりにくいかもしれない。

基本的には、18世紀のフランスにおける、
「人間科学および社会科学への確率論の応用可能性」
をめぐる思想を検討している。
具体的に取り上げられるのは、
ダランベール、ビュフォン、コンドルセという三人の人物である。

大まかに言って、ダランベールとビュフォンは数学が
自然科学や「人間/社会科学」に適用できるかどうか、
あるいは適用すべきかについてほとんど反対の見解を述べていたが、
次の世代のコンドルセがこれを総合する方向性を示した、
という筋書きになっている。

その際、一貫して俎上に乗ってくるのは確実性と蓋然性という問題で、
この論考の本当のテーマは、科学的知識の確実性・蓋然性が
当時どのように考えられていたか、ということだと言っても
過言ではないように思う。

著者の隠岐さんには、専門分野(時代)が非常に近いこともあり、
いつも大変お世話になっている。
(で、実のところ、この章の一部には草稿段階でコメントしたので
章末の謝辞で僕の名前が挙がっているという次第。)

なので贔屓目なコメントになってしまうが、この論考は、
啓蒙の時代と呼ばれたこの時代の科学を考える上で、
また、そもそも啓蒙主義について考える上で必読である。
なぜならここで扱われている「人間/社会科学」なるもの自体が、
「啓蒙思想そのもの、もしくはその核を構成する
人間と社会に関する探究の別名とすら呼べるかもしれない」からだ。
個人的には以前から、この「人間/社会科学」と確率論に関する話を
誰かまとめて書いてくれないかなと思っていたところだったので、
これは非常にありがたい。

また、啓蒙主義にはさほど興味がないという場合でも、
ここで話題になっている数学の適用可能性という問題は
今の目で見ても非常にアクチュアルなものなので、
歴史的背景を抜きにしても考えさせられる内容になっている。
また、ベイズの定理の話なども出てくるので、
特に科学哲学の関係者には一読をお勧めしておきたい。

最後にもう一つ、この論考で打ち出されている重要なポイントを。
それは、ふつう漠然と思われているのとは違って、
力学に代表される数理科学が必ずしも
啓蒙主義の中心的な科学観だったわけではない、という見方である。

僕自身はまさにその、啓蒙の時代における力学を研究しているのだが、
ずっとこれに取り組んできた結果、同じような見解に傾いている。
その意味で、この論考は今後、僕自身の研究にとって
かなり重要なものになってきそうだ。
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by ariga_phs | 2011-02-23 23:59 | 何かに使えそう
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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