井田「『百科全書』の<誤謬理論>」(2010)
井田尚「啓蒙と迷妄:『百科全書』の科学項目に見る<誤謬理論>の歴史」
金森修編著『科学思想史』(東京:勁草書房、2010)、187-253頁。




少し間があいたが、続きを。

****

この論考の趣旨は、十八世紀の啓蒙主義を代表すると一般に言われている
『百科全書』を紐解き、その中の科学関連項目で
誤った概念や理論といったものがどのように扱われているかを見る、というものだ。
取り上げられている主な項目には、
「酵母」「発酵」、「炎症」、「賢者の石」「回春」、「感応力」、「種痘」があり、
このほか、ダランベールによる『百科全書』の「序論」や、
ディドロによる『ダランベールの夢』などにも触れられている。

全体として、まとまった議論を展開するというより、
テクストからさまざまな論点を取り出して思索しつつ並べる、という感じ。
誤解を恐れずに言うと、とても文学的なアプローチなので
自分としてはちょっと物足りないところがある。
とはいえ、哲学的なアプローチではそもそもこれだけいろいろなテクストを
取り上げて読んでみようとは普通思わないわけで、
<ここにこんなことが書いてある>という紹介それ自体に価値がないわけではない。
(特に種痘の話は、前の章で問題になっていた確率の話と密にかかわっているので
こういう紹介があるのはありがたい。)

それでどんなことがわかるのか。
著者としては、過去のさまざまな誤謬というものが
「人類による自然の探求の試行錯誤に満ちた道のりを示す道標として、
教訓的かつ啓蒙的な役割を担っていた」と見ているようだ。

この結論自体はそう意外なものではないように思うのだが、
そもそも<過去にこういう誤りがあった>という歴史の語り方そのものが
案外新しい(この時代に出てきた)ものであったのかもしれない。
<科学的>という発想の起源もたぶんこのへんにある、と僕などは思うわけである。
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by ariga_phs | 2011-02-28 21:14 | 何かに使えそう
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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