橋本「『自然哲学論』と解析力学」(2011)
橋本秀和「W. トムソン&テイト『自然哲学論』:
「ラグランジュの解析力学」から「現代的な解析力学」へ」
『科学哲学科学史研究』第5号(2011年)、97-110頁。



専門的な物理学の世界で、「ラグランジュ形式の解析力学」などと
呼ばれている理論体系がある。
その名前からしてラグランジュに由来すると思われるわけだが、
実のところラグランジュ本人が書いたものと現在のものとは
必ずしも同じではない。

では、その間にどのような経緯があって、いまに至っているのか。

この論考(正式な査読論文ではなく研究ノート)では、
19世紀後半の有名な教科書の一つ、トムソンとテイトの『自然哲学論』を取り上げ、
この初版と第二版の違いに着目している。
二つの版では理論の組み立て方(法則や原理の導出の仕方)が違っていて、
古いほうはラグランジュのもともとの議論にほぼ忠実だが、
新しいほうはむしろ現代のスタイルに近い、ということが論じられている。

もちろん、この改版をもって解析力学の歴史における転換点だとして
よいのかどうかはなんとも言えないところだし、
著者が最後に書いているように、この変更の背景に何があったのかも
まだ調べてみる必要がありそうだ。

ただ、19世紀における力学の歴史というのは本当に研究がないので、
研究ノートと言えど、非常に貴重な一本であるのは間違いない。
いまの教科書に書いてあることがいつから常識になったのか、
というのは少なくとも現場の物理学者の方々には気になるところだと思うので、
そういう人には特にお勧めしたい。

****

著者の橋本君は以前の僕の後輩で、
修士課程を出て現在は社会人をしているが、
本人としては研究を続けたかったという人である。
仕事で忙しい中、こういう形で論文を書いてくれるのはとてもありがたいし、
こちらとしてもいろいろサポートしたいところだ。

なお、掲載誌は僕の(まだ)所属している研究室が発行しているもので、
この論文の載っている最新号がつい先日、
オンラインの京都大学学術情報リポジトリで公開された。
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bulletin/phs

折しも同じ号に、ラグランジュ『解析力学』の拙訳(一部)もあったりするので、
関心のある方はご覧いただきたい。
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by ariga_phs | 2011-03-01 20:17 | 何かに使えそう
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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