吉本「ボイルの化学」(2010)
吉本秀之「ロバート・ボイルの化学:元素・原質と化学的粒子」
金森修編著『科学思想史』(東京:勁草書房、2010)、255-323頁。



ロバート・ボイルは、17世紀イギリスの重要な自然哲学者。
今日では気体に関する「ボイルの法則」に名前を残しているくらいだが、
化学の歴史では最重要人物の一人と見なされている。

この論考の著者の吉本先生は日本におけるボイル研究の第一人者
(あるいは、少なくとも僕の知る限り、ほとんど唯一の専門家)で、
一読した感じ、現時点でボイルについて詳しいことを知りたければ
何はともかくまずこれを読め、という内容になっていると思った。

経歴紹介のあと、ボイルを理解するための前提知識として、
中世から初期近代における四元素と三原質の理論についての紹介がある。
これを踏まえて、ボイルの化学思想、もっと簡単に言えば
物質は何からどのようにできているのかをめぐる考えが解説される。

結論から言うと、世界の最小単位は原子だが、
ただし現在のものとは違い、原子相互の違いは大きさ・形・運動しかない。
したがって原子のあいだに質的な違いはないが、
これが集まってできる一次的集塊物が化学的性質を持つとされる。
そして、さらにこれが集まっていろいろな複合的物質ができる、という。

ずいぶん簡単な、僕らにも馴染み深いアイディアに聞こえるが、
それまでの理論(四元素説や三原質説)と比べると大きく違っている。
ボイルの考えと現代のものとのあいだにはまだ差異があるが、
それでも化学の歴史上、一つのポイントなのは確かなのだろう。

しかし個人的に「なるほど!」と思ったのは、
ボイルにおける通常の化学と錬金術との関係についての説明だ。
要は、普通の化学反応が一次的集塊物やニ次的集塊物の
集合離散として考えられるのに対し、
錬金術というのは普通の化学反応のレベルを超えた
一次的集塊物の原子への分解と再合成、ということらしい。
だからこそ、そこでは現代的な意味での化学と
(狭義の)錬金術とが共存しうるし、現にしていたわけだ。

余談だが、もしこの区別を現代の状況に当てはめてみるなら、
原子そのものを別の原子に変えるような素粒子物理学の実験は
まさしく錬金術ということになるだろうか。
なんだか考えさせられる。
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by ariga_phs | 2011-03-02 21:52 | 何かに使えそう
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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