小野田「慣性の相対性とマッハ原理」(2011)
小野田波里「慣性の相対性とマッハ原理:
一般相対性理論の形成過程をめぐって」
『科学哲学科学史研究』第5巻(2011年)21-49頁。



最近出た研究室の紀要からもう一編。

著者の小野田さんは研究室OGで、現在、北大の院生をされている方。
京大(修士)時代からアインシュタインを、
それも一般相対論というハードなテーマを研究されていたと伺っている。
(蛇足ながら、これだけの情報から一般に想像されるであろう人物像と
ご本人の雰囲気はだいぶ違っているのではないかと……)


この論文では、1907年から1918年までのアインシュタインの一連の論文
(一般相対性理論の形成に関わるもの)を分析し、
その中で「慣性の相対性」や「マッハ原理」と呼ばれている主張が
何を意味していたのかを論じている。

結論だけメモしておくと、アインシュタインの主張には
(1)「慣性質量の相対性」、(2)「全慣性の相対性」、(3)「加速度の相対性」
という三つの議論のレベルがあり、
一般相対論の形成においては一貫して(1)→(2)→(3)という方向で
理論の発展が目指されていたということのようだ。
その際、特に(2)がマッハの主張と関連付けられているとされ、
最終的には次のようにまとめられている。

「つまり彼が目指していたいわゆるマッハ的な理論とは、
「全慣性の相対性」、「大域的な慣性の相対性」が満たされる理論であり、
……「時空のあり方」が「宇宙全体の物質分布」によって
完全に決定される理論であると言える。」

僕はアインシュタインについてはよく知らないのだが、
一般相対論の形成に際し、等価原理や一般共変性といった
(その筋ではよく知られた)ことがら以外にも見過ごせない要素があることを
この論文は示しているのだと思う。
一般相対論の形成を扱った邦語文献はごく限られているし、
これは貴重な一本となりそうだ。

****

ついでに書いておくと、この論文にはものすごく親近感を覚える。
どこに、というと、問題設定の仕方に、である。

そもそも「慣性の相対性」や「マッハ原理」なるものは、
完成した一般相対論では成り立たないものであったらしい。

「しかしこの実現されなかった「原理的要請」が何かを明確にすることで、
アインシュタインが目指していた理論がどのようなものかを
明らかにすることができるだろう。」

つまりこの論文が問題にしているのは、
<アインシュタインは何をしたかったのか>、
ということなのだ。
そしてこの<何をしたかったのか>というのが、
少なくとも僕が科学史をやるときの根本的な関心になっている。

もっとも小野田さんの場合、ご関心は歴史ではなく
あくまで時空の哲学のほうにあるのだそうで、上の引用の直後にも
「このことが時空の理論として望ましい理論を考える出発点と
なると考える」とある。
したがってここでは歴史が哲学の道具として考えられているわけだが、
そうしてなされた概念分析は歴史にとっても有用でありうる。

歴史と哲学のあいだで、うまく互恵関係を築いていければと思う。
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by ariga_phs | 2011-03-06 12:23 | 何かに使えそう
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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