土曜日
気温は低め、風も強めだが、よく晴れた日になった。



こんな日には、どこかに出掛けないともったいない。
気持ちを切り替える絶好の機会。



まずは河を目指した。
自転車で河川敷に向かう。家からはそう遠くないが、こちらのほうには初めて来た。
少し坂を上るようにして、堤防沿いの道に出る。
景色が開けたとき、予期していなかった感動に襲われた。
高校まで過ごした町を、そこを流れていた川を思い出した。
大きさはずいぶん違うが、どちらも河川であるには違いない。
僕の原体験のようなものを作っているのが海でも山でもなく、
川であったことを思い出した。
そうして、ここでなら生きていけるような気がした。

川下のほうに向かって、河川敷を走っていく。
ゆっくりと下っていく長い坂道で、強い風を受けつつ、ペダルをこぐ。
自然と歌が口をついて、そのまましばらく走り続けた。
ようやく元気になった、という確かな感覚があった。



それからしばらくして、とあるカフェに僕はいた。
出がけに少し調べたところ、家から自転車でならそこまで遠くないところにある
この店が、なんとなくよさそうに思えたのだった。
予想は当たった。
大きすぎず小さすぎず、派手すぎず地味すぎず、
要するに僕にとってちょうど居心地のよい店だった。

少し誇張した言い方になるが、こういう場所をどうしても見つけておく必要がある、
と思っていた。
もちろんここに入り浸れるような生活ができるはずもないし、
できたとしてもたぶんそういうことはしないだろう。
そうではなくて、たとえばたまの休みに少しゆっくりしたいと思ったときに来られる場所、
もっと言えば、休みの日にここに行くのを一つの目標にして仕事ができる場所、
そういうところが自分には要る、と。
それが自転車の圏内に(つまり交通費のかからないところに)あるというのは
僕にとって極めて重要なことだ。



その店で、とあるビジネス書――「仕事術」の本――を読んでいた。
2月に京都で送別会をしてもらったとき、後輩たちから
(おそらくは半分ネタで)もらった本である。
数ある同種の本の中からこれを選んだ理由として、選んだ当人である後輩が、
これは有賀さんぽいと思う、と言っていたのが気になっていた。
にもかかわらず今まで引っ越し荷物に埋もれていたのを、まずは謝っておこう。

読みながら、なるほど確かに僕っぽい、と思った。
そこで言われているようなことを今の自分が実践できているわけではないが、
僕が目指したいのはかなりの部分こういう方向であろう、と。
不思議なもので、そういう同じ方向性の人の言う忠告だと、
案外すんなり聞き入れる気になってくる。
もちろん完全に真似るなどは無意味だが、賛同できることは参考にしようと思える。

面白かったし、この際なので、一気読みしてしまった。
それだけでなく、これからの仕事に関わる大事な宿題をその場でやり始めた。
しばらく考えてみた末に出された回答案は、
かつてなく点数の高いものになっているような気がする。
(もっともその本では、「本当にこれでいいのか?」と常に問い直すことが
強調されているので、この回答自体、最終的なものにしてはいけないわけだが。)



まあ、そういうわけで、

やっとのことで仕事する気になった。
世の中の状況がまだ全然落ち着いていないのは確かで、
僕らはそれを忘れてはいけないと思うけれども、
とにかく自分は自分で、「よい」仕事をするように努めよう。



風よ どうだろう 見渡してくれないか
悪くないこの世界 きのうは散々だって
(阿部芙蓉美『on saturday』)

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by ariga_phs | 2011-03-26 21:24 | 歳歳年年
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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