山内昌之『歴史の作法』
山内昌之『歴史の作法:人間・社会・国家』文春新書、2003.



歴史とは何か、ということに関する本は、これまでにも何冊か読んだ。
それらと比較してみたとき、この本には他になかった特徴があって、
そこに惹かれて買うことにしたのだった。

読み進めていくなかで、歴史というものについてこれほど多様な考え方がある、
ということに嘆息することしきりだった。
それはまた、歴史家といっても実にいろいろだ、ということの再認識でもあった。
同書の概要のところには、次のようにある。

どう書けば歴史の「真実」を伝えることができるのか、
そもそも歴史は科学か文学か、
歴史家は現実政治に向き合うべきではないかなど、
本書が問うのは歴史に取り組む人間の根本姿勢である。
その観点から著者はヘロドトス、司馬遷、イブン・ハルドゥーン、
ギボン、ブローデル、北畠親房、新井白石、内藤湖南など、
古今東西の主要な歴史家を取り上げ、
彼らが歴史をどう捉えたか詳細に跡づける。
歴史学の意味と使命を考える、歴史を学ぶ人間必読の書。

ここでは8人の名前しか挙がっていないが、
「主要人名索引」には、僕の数え間違いでなければ188168人の名前がある。
日本人と外国人がほぼ半分ずつで、外国人では西洋の人々に加えて
中国やイスラーム圏の人名も多数登場するのが特色と思う。

僕がこの本に惹かれたのは、まさにこの多様性のためだった。
というのも、歴史について論じている本の場合、多くは
西洋か日本(それも近現代)か、そのどちらかで話が閉じるような感じがして、
いやそれだけが歴史ではないだろうという違和感があったからだ。
実際、中国や、近世以前の日本での歴史のあり方、
あるいは著者の主要な研究フィールドであるイスラーム圏の場合、
そういったものを持ち込むことによって、
よい意味で、西洋の歴史学の伝統が相対化されている印象がある。
知らないことがあまりに多すぎたために消化不良の感は否めないのだが、
こうして(嫌でも)視野を広げさせられたのはきっと悪いことではない筈だ。

もっとも僕に関して言えば、歴史は歴史でも科学史なので、
政治史を念頭に置かれているこの本に対して、
というより政治史でもって歴史一般を語られることに対して、
居心地悪さを感じないわけでもない。

同書では、「引き裂かれた歴史学」という小見出しのある箇所(第4章冒頭)で、
一度だけ「科学史」という言葉が出てくる。
第二次大戦後に歴史学の扱う分野の拡大と「分業」が進んだという話の中で、
「技術史」「国際関係史」「美術史」等々とあわせて登場してくるのである。
ただしそれについて具体的な議論があるわけではなく、
著者はそこから、「一般歴史学は生き残れるか」という方向に話を進めていく。
これは、もともとの歴史学が基本的には政治史であるという認識のもとで、
その分野を専攻している著者としてはごくまっとうな問題意識だと思うけれども、
僕のような人間からすると、問題の所在は別のところにある。
それは、科学史は一般歴史学に接続できるか、ということだ。

僕の直観では、仮に接続できるとすれば(かつそれを望むのであれば)、
行き方は大きく二つありそうに思う。
一つは、科学史をベースにした(比較)文明論の方向に進むこと。
もう一つは、現代の科学技術を政治的次元まで含めて批判する方向に進むこと。
自分がそれを目指したいのか、目指すべきなのか、考えはまとまっていないが、
以前よりもこういう問題に対して敏感になりつつあるのは確かなようだ。

過去をそれ自体として研究する、というのは一つの誠実なやり方だし、
僕自身、これまで基本的にそういうスタンスでやってきた。
それが、ひょんなことから企業にも籍を置くことになり、
まさに現在進行形で起こっていることがらの調査に関わり始めたために、
自分がこの先どうしていくのか、改めて考えざるを得ないだろうなと感じている。
新しい仕事がこの先自分にもたらすものが何であれ、
こうなってしまったからには僕なりの歴史研究にうまく取り込んでいきたい。
そんな変わり種の歴史家が一人くらいいても、まあ悪くはないだろう。
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by ariga_phs | 2011-04-30 10:39 | 斜めから読む
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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