『白洲正子 神と仏、自然への祈り』
『白洲正子 神と仏、自然への祈り』@世田谷美術館



白洲正子という名前を知ったのは、父の持っていた本からである。
実家には確か、『西行』『両性具有の美』『白洲正子自伝』などは少なくともあったし、
たぶんほかにも父はいろいろと読んでいるのだろうと思う。
とはいえ、僕自身はそうした本には手を出すことなく、今に至っているのだが。

先日、地下鉄に乗っているときに、この展覧会のポスターを見かけた。
ほう、と思って家に帰ってきたら、文化財関係の仕事をしている伯父のところから、
この展覧会のチケットが送られてきていた。
会期末も近いし、これも何かの縁、ということで、見に出かけてきた。



美術館のウェブサイトには、次のような案内がある。

今回の特別展は正子が旅先で出会った神や仏、自然を
彼女の著作と関連づけながら紹介していくものです。
多くの国宝や重要文化財、秘仏が世田谷美術館に集結することが
本展の大きな特徴となります。

展覧会の名称は「白洲正子」だが、白洲正子を直接紹介するのではなく、
この人が接した全国各地の文化財を集めて展示する、という趣向である。
言ってみれば、「白洲正子」をキーワードにして、
本来なら特に関連のない品々を一堂に集めてみたというわけだ。
下手をすると全然まとまりのない展示になってしまいそうだが、
それぞれの展示品には白洲正子の著作から関連する文章が添えてあり、
これがナビゲーターのような働きをして、展示全体に一貫性がもたらされている。
結果としてそこに、この人物の姿も浮かび上がってくるわけで、
よく出来ている企画だと感じた。

ただやはり、この展覧会の見どころは展示品そのものだろう。
僕はこれまで、日本の文化財にそう興味があったわけでもないのだが、
今回集められていた品々は予想を裏切って面白かった。
特に、十一面観音(『十一面観音巡礼』は白洲正子の代表作の一つ)の
時代によるさまざまなバージョンの違いなどは意外なほど顕著だったし、
仏像ならぬ神像(前者の影響を受けて作られた、神道系の像)の数々の場合は、
そもそもそういうものが存在する、ということ自体が驚きだった。
あるいは、狛犬の出来栄えがあまりに素晴らしくて惚れ惚れとする、
などという経験は、たぶんこれまでしたことがない。
そしてそういうことからすると、「神と仏、自然への祈り」という
いわゆる「日本人の」信仰というのが自分にも通じている、
ように感じられないこともない。

が、それでもあえて、ここで一歩立ち止まってみたい。
たとえば今回の展示品リストを見ると、展示品の所蔵はほとんどが近畿、
特に滋賀、奈良、和歌山となっている。
これは、『西国巡礼』『近江山河抄』といった白洲正子の代表的紀行作品が
この地域を対象としていることと無関係ではないだろう。
基本的に東京で生活し、また頻繁にヨーロッパを訪れていた彼女が、
「旅先」としての近畿に惹かれたのはなんとなくわかる。
けれども、そのようにして、一部の地域の風物を「日本」へ拡張することには
やはり慎重でありたい。

十一年間過ごした京都から東京に移ってきて、
日本はやはり、いくつものクニから出来ているのだなということを感じている。
研究室に出入りしている学部生は沖縄出身だというし、
お世話になっている先生は宮城県多賀城のご出身である
(幸い、ご実家は危ういところで津波被害を免れたということだ)。
そういう人たちが皆、共通に持てるような「日本」が存在するという考え方には、
僕はどうしても賛同できない。

ただ、日本人だからとかいうのとは無関係なところで一般に成立する、
文化財や美術品、文章に対する感嘆というのはあると思うし、
むしろそうであってほしいと願う。
この企画展で見ることができた品々は、まさにそういうレベルで、
こちらに迫ってくるものを持っていた。
それはつまるところ、それを生み出した人間の祈りにほかならないだろう。
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by ariga_phs | 2011-05-01 12:58 | 斜めから読む
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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