Jan Golinski, "Barometers of Change:
Meteorological Instruments as Machines of Enlightenment"
In
The Sciences in Enlightened Europe,
ed. Wiliam Clark, Jan Golinski, and Simon Schaffer
(Chicago: University of Chicago Press, 1999),
pp. 69-93.
18世紀科学史読書会、実質的な第一回目。
今回は、18世紀のイギリスを中心に気圧計(晴雨計とも)をめぐる諸相を描いた
論文を取り上げてみた。
前半では、17世紀後半における気圧計の発明(ボイルらが関わっている)から始まり、
気圧計の仕組みに関するロイヤル・ソサエティでの議論を見たあと、
当時の一般向け解説書や、製造職人の広がりについて述べられている。
さらに、気圧計が天気予報に使えることを期待して販売されていたこと、
その際にこれが伝統的な「天気読み」のルールの中に位置づけられたことなどが
提示される。
後半ではむしろ、気圧計に対して当時付与された意味が問題になっている。
著者はそれを、「新科学の成果の物質的証拠」や「カンバセイション・ピース」として、
またとりわけ「人間知識の限界と労を惜しまぬ経験的探究の道が不可避であることの象徴」
として解釈している。
このうち最後の点は、気圧計が天気を必ずしも確実に予測しない、ということや、
経験的データを収集してもなかなか一般的な法則が得られなかったということに
関係するものである。
全体として、気圧計や気象観測そのものについての歴史研究というよりはむしろ、
気圧計を通じて見えてくる啓蒙主義時代の特徴を描き出そうとした論文と言える。
これはこれでとても面白いと思うのだが、ただ個人的には、
イギリス以外の国の状況がどうであったのかということと、
たとえば温度計などとの関係はどうなっているのかといった点が気になる。
ちなみに著者は近年、おそらくこの論文の発展形に違いない、
British Weather and the Climate of Enlightenment (2007)
という本を出している。未見だがそちらも読んでみたいところ。