『花の画家 ルドゥーテ『美花選』展』
『花の画家 ルドゥーテ『美花選』展』
@Bunkamuraザ・ミュージアム(2011/5/29-7/3)
http://www.bunkamura.co.jp/museum/lineup/11_redoute/index.html




ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ(1759-1840)は
フランスで活躍したベルギー生まれの画家で、主に植物画で知られる。

僕がこの人物のことを初めて知ったのは、
DastonとGalisonの大著 Objectivity を読書会で読んだときで、
その後にはたまたま、パリの自然史博物館を訪れたときに、
ルドゥーテの小規模な企画展示を観る機会があった。
そういう経緯があるので、今回は趣味と研究をかねて見に出かけた。



ルドゥーテの絵が面白いと思うのは、それが
科学と美術のあいだで揺れているように見えるからだ。

そもそも彼の初期の作品は、当時の学者が書いた植物学の本に
図版を提供するという体裁を採っていることが多い
(今回の展覧会は後期の作品を中心にした企画だが、
この時期のものも一部展示されていた)。
そこでは必然的に、どのような絵を描くべきかについて、
科学の側から一定の要請があることになる。
画家が自分の美的センスにしたがって好きなように描けるわけではない。

ところが、画家としての名声が確立してくると、
彼は自分で植物画集を出版するようになってくる。
もはや学者の指図を受けることはない。
今回展示されていた絵から受けた全体的な印象は、
この画家としての自立過程と並行して、
彼の描く絵がサイエンス・イラストレーションから
ボタニカル・アートに近付いていったように見える、
というものだった。

しかし、そうした後期の作品にあってもなお、
ルドゥーテが美術の世界へ完全に移ったわけではないように思う。
実際、『美花選』や『バラ図譜』に収められた絵の中には、
美術作品というよりは明らかに図鑑のイラストに近いと思うものがある。
僕は絵を描くという経験に乏しい人間なので、残念ながら
その両者の差異が具体的に何なのかを語る言葉を持っていない。
ただ漠然と感じるのは、この人の描く絵が往々にして、
サイエンス・イラストレーションというには「美術的」に過ぎ、
ボタニカル・アートというには「科学的」に過ぎるということだ。

実のところ、展覧会での解説を読んで初めて知ったのだが、
ルドゥーテは植物学に資するような絵を描くという目標を強く意識しており、
自分の絵を次の世代の画家たちの手本にしたいと考えていたらしい。
描き方の革新による科学への貢献、というと
解剖学のヴェサリウスをとりあえず思い出すわけだが、
ルドゥーテの絵が植物学に、あるいは自然史一般に何をもたらしたのかは
もう少し詳しく追求してみる価値があるのかもしれない。
とりわけ、ルドゥーテの生きた時代が、DastonとGalisonの言う
"Truth-to-Nature" から "Mechanical Objectivity" への移行期に
当たっているだけに、この問題はいっそう興味深い。

また、今回初めて知ったのだが、ルソーの死後出版作品『植物学講義』に
図版を付けたのもルドゥーテだったようで、時代状況を考えると
何がどうなってそういう出版企画になったのかも気になるところだ
(それくらいのことは研究があるのではないかと思うが)。



結果的に、絵を観て楽しむというよりは
科学史のことをあれこれ考えさせられる展覧会だった。
企画構成そのものはむしろ、「花の画家」というのを前面に出して
特に女性客を意識しているのが明らかだったのだけれども・・・。



Objectivity が気になる方は、
ひとまずこちらのエッセイレビューをご参照願いたい。
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/108690

なお、同書では実は科学者と画家の関係という問題についても
論じられているのだが、このエッセイレビューでは触れられなかった。
たとえば、18世紀においては画家は学者の目に映る真理を描くことが
求められたといった議論がそこでは行われていて、
上で僕の書いたルドゥーテに関するコメントはかなりの部分
同書に影響されていることをお断りしておく。
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by ariga_phs | 2011-06-28 13:55 | 斜めから読む
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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