阿満利麿『行動する仏教』
「世も末だな」、と思う。



そういうわけだから、ここはやはり仏教の出番だろう。

3.11以降、いま必要なのは何はさておき宗教ではないのか、
と真面目に考えている。
もともと人生には宗教が必要だと思っていたところ、
昨今の世の中が世の中なのでその気分はどんどん強まる一方だ。
いったい、これだけ絶望感と無力感のあふれる状況で
仮にもまともに精神を保って生きていこうとするならば、
何かしら拠り所にできるものがなければ無理というものだろう。

ところが、ジャーナリストや批評家が3.11後にこぞって本を出す中で、
宗教関係からの動きはどうも目に見えてこない。
もちろん、それぞれの内部ではいろいろな意見表明なり祈りなりが
なされているのだろうけれども、それが外に向かって発信されている感がしない。
そんなことを思っていたら、先日こういう本を見つけた。

阿満利麿『行動する仏教:法然・親鸞の教えを受けつぐ』
ちくま学芸文庫、2011年(8月10日第一刷)

確証はないけれど、宗教の立場から3.11後に書かれた
一般向けの文庫・新書としては最初のものかもしれない。

この著者の本は実は今まで読んだことがなかったので
(一般向けの本を多数出されているのは知っていたが)、
この機会に買って読んでみた。

結論から言うと、これはぜひ多くの方に読んでみてほしい。
そう思う理由は大きく二つある。

一つには、浄土宗・浄土真宗の考え方の要点がたいへんわかりやすく書いてある。
ここまでわかりやすいと感じた説明は、これまで読んだことがない。
どうして「わかりやすい」と思うかと言えば、
現代の、おそらくは誰にでも当てはまる問題から出発して書かれているからであり、
また、外部の人が疑問に感じるであろう点を細かくフォローしているからであり、
さらには著者自身、信じることと疑うことのあいだを常に揺れているからだ。
考えていくときの筋道を、納得いくように説明しようとしている、と言ってもいい。

あるいは、著者の言い方を僕なりにパラフレーズして言うなら、
まず問題なのは人間(特に自分自身)についての反省と考察であって、
信仰はそのあとに勝手についてくる(かもしれない)、ということなのだ。
これは僕の立場でもあるけれども、頭ごなしに「信じよ」と言うのは宗教ではない。
身近なところから考えを深めていって、その先で出会うものだと思う。

話を戻して、この本を勧めてみたいもう一つの理由は、
仏教と社会思想がどうつながるかが議論されているからだ。
それは確かに僕自身が以前から気になっていたところで、
つまり浄土真宗の立場からは(というのはそれが僕の宗派だからだけれども)、
対人的な道徳や倫理といったものは出てくるのかどうか、ということである。

僕の不勉強なせいもあるのだと思いたいが、多くの場合、
仏教の説くところというのは個人のライフスタイルの問題に関わっていて、
社会がどうあるべきかというところまで踏み込むことはめったにない気がする。
しかるにこの本の一番の趣旨はまさにそこにあって、
「エンゲイジド・ブッディズム」(正確にはsocially engaged Buddhism,
直訳的には「社会参画仏教」とでも言えばよいか)という海外の潮流を紹介しつつ、
日本の文脈でそれがどういう意味を持った/持つかについて議論されているのだ。

もとより著者自身は社会思想の専門家ではないだろうし、
僕自身もこの方面はあまりよく知らないので突っ込んだコメントはできないのだが、
少なくとも仏教思想と社会思想がどうつながりうるかというところを
真面目に議論しているのは刺激的だ。
特に、「暴力をめぐって、それを肯定するのが政治であり、それを否定するのが宗教」
だという意味で宗教と政治が対極にあるという主張は
いろいろなことを考えさせずにおかない。
不平等、貧困、民主主義、そういったものに興味がある人は
一読してみると何か新しい発見があるかもしれないし、
僕としても、社会思想系の人の建設的な批判を聴いてみたいと思う。

ここまでこの記事を読んできて興味を持った人のために、
参考までに、この本の章立てを書き写しておこう。

はじめに
第一章 「絶望」と「無関心」の正体
第二章 「有限」に立ち向かう
第三章 「エゴ」を転換する
第四章 時代と向き合う
第五章 「末世」のただなかで
あとがき
主な参考文献


浄土真宗関係者のはしくれとしては、これを読んでファンが増えてくれれば嬉しい、と思う。
が、それは結果論なので、まあ極論すればどちらでもよいことだ。
ただ、今日の時代状況の中で人はどうやって生きていけばいいのか、
絶望の中からどこに希望を見いだせばいいのか、
そういったことに興味があるのなら、一度手に取ってみても(たぶん)損はないだろう。
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by ariga_phs | 2011-09-11 00:00 | 斜めから読む
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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