薩日娜「『原論』最初の日本語訳」
薩日娜「ユークリッド『原論』前六巻の最初の日本語訳について」
『哲学・科学史論叢』(東京大学教養学部哲学・科学史部会)第14号(2012),1-21頁.




ユークリッド(あるいはエウクレイデス)『原論』の最初の日本語訳、
『幾何学原礎』(1875-1878, 明治8-11)について議論した一篇。

正直に言って何が中心的な論点なのかはあまりはっきりしないのだけれども、
研究論文としての一番のポイントはたぶん、『幾何学原礎』の底本を
Robert Simson, The elements of Euclid (Edinburgh: J. Balfour, 1787)
だとしている点だろう。
(江戸~明治期の翻訳書の場合、そもそも何が原本なのかを特定することが
大きな研究課題になることがしばしばある。)

ほかには、この翻訳に関わった人物の紹介
(静岡学問所のお雇い教師でユークリッドを講じたE.W.クラーク、
翻訳を手掛けた川北朝鄰および山本正志)、
『幾何学原礎』と従来知られていた漢訳書『幾何原本』との相違、
『幾何学原礎』の教科書としての利用状況などがまとめられている。

本稿を読む限り、"theorem"を「定理」と訳したのは『幾何学原礎』が最初らしい。
ただ、それがその後の用語に直接つながっているのかはどうかは
特に議論されていないので何ともわからないのだが。

また、定義、要請(公準)、共通概念(公理)の数が『幾何原本』『幾何学原礎』
および現代校訂版では相違しているという指摘がなされているのだが、
具体的にどう違うのか、その理由は何かということまでは特に書かれていない。
数学史的にはこのあたりも興味のあるところではある。

どちらかというと、『幾何学原礎』という本の内容よりむしろ、
明治初頭の日本における西洋数学の状況について書かれた一編と言える。
数学的内容に期待して読むとがっかりするかも、ということを注意しておこう。
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by ariga_phs | 2012-04-18 21:16 | 何かに使えそう
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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