金凡性「戦間期日本における紫外線装置の開発と利用」
『科学史研究』第51巻(2012),1-9頁.
長いこと研究者っぽい生活をしていなかったので、“リハビリ”をかねて、
最近の『科学史研究』に載った論文のまとめを書いてみる。
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紫外線を発生させる装置(ランプ)をめぐる歴史研究。
紫外線ランプそのものが重要というよりは、むしろそれを通して
当時の社会のさまざまな側面が見えてくるということのほうが大事。
前半では、戦間期(おおむね1910-30年代)におけるガラス産業の発展と、
特殊ガラスの研究開発の始まりについて書かれている。
こうした背景のもと、1930年頃には一般向けの紫外線ランプが発売されるが、
後半ではそうした装置がどのように使われたのかを検討する。
紫外線ランプは医療や保健目的(「健康照明」)で宣伝されたのだけれども、
それは新たな電力需要を喚起しようとする電力会社の経営戦略とも関連していた。
以上のあらすじが、多種多様な史料を駆使して語られている。
媒体としては社史や業界誌が多いようだ。
参考文献に挙がっているもの以外にも大量の調査がなされたのだろうと思う。
結果として、紫外線ランプをめぐる産業・研究開発・経営の歴史といった内容。
言い換えると、紫外線装置に対する生産側の動きを中心に議論している。
個人的には特殊ガラスの研究開発のくだりが特に興味深かった。
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なお、金さんには次の論文もある。
金凡性「紫外線と社会についての試論:大正・昭和初期の日本を中心に」
『年報 科学・技術・社会』第15巻(2006年),71-90頁.
こちらはむしろ消費サイドから、つまり当時の消費者あるいは一般大衆にとって
紫外線がどういうイメージを持つものだったかを議論している。
特に美容や健康との関係についてどんなことが言われていたかを、
これまた多種多様な、よくこんなもの見つけてきたなという史料に基づいて
論じた興味深い一編。
この論文と今回の論文とが、ほぼちょうど表裏の関係になっている。
読み比べると、見えるものが大きく異なるのが印象的s。
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金さんには昔、大学院生だった頃、勉強会でお世話になった。
ついでなので簡単に紹介しておくと、韓国のご出身だが、
日本の大学院で科学史を専攻して博士論文を書かれた。
その内容は次の本になっている。
金凡性『明治・大正の日本の地震学:「ローカル・サイエンス」を超えて』
東京:東京大学出版会,2007年.
日本における地震学の始まりを追った研究書。関心のある方はどうぞ。