『もうひとつの「世界でもっとも美しい10の科学実験」』
George Johnson, 『もうひとつの「世界でもっとも美しい10の科学実験」』を読んでの感想。




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言ってみれば、著者が独断と偏見で選んだ歴史上の実験ベスト10を紹介する、という本。
こう書いてしまうとなんだか安っぽく聞こえるが、読んでみるとまったくそんなことはない。

そもそも、肝心な対象の選び方がなかなか渋い。列挙すれば以下の通り。

・ガリレオの斜面実験:落下距離が時間の二乗に比例すること
・ハーヴィの血液循環実験:血液が体内で循環していること
・ニュートンのプリズム実験:白色光がさまざまな色の光の混合であること
・ラヴォアジエによる空気の分解と合成実験:酸素と窒素の分離
・ガルヴァーニvsヴォルタ:電池の発明につながった、「動物電気」をめぐる実験論争
・ファラデーによる一連の電気実験:モーターの発明、電磁誘導、ファラデー効果
・ジュールの一連の実験:熱と仕事の等価性
・マイケルソンによる光速の測定:エーテルを検出しようとしてできなかった
・パブロフによる犬の条件反射の実験:ある種の機械として生物を理解する
・ミリカンの油滴実験:電子(電荷の最小単位)が存在すること

最初のほうこそよく聞く話だが、途中からはわりとマイナーなテーマが取り上げられている。
そしてそのどれもが、「この実験はすごい!」という盲目的な書き方でないのがよい。
とりわけガルヴァーニvsヴォルタの話を、「ヴォルタが正しかった!」というストーリーではなく
ガルヴァーニの実験も劣らず素晴らしかったという視点で描いているのは好感が持てる。

だいたい科学の歴史が面白いのは、新しく出てきたアイディアはそう簡単には世界を動かさない、
からではないだろうか。いくら斬新な理論でも、あるいは(今から見て)決定的に思える実験でも、
それが認められるまでには概して時間がかかる。
周囲に理解されなかった科学者、というストーリーには確かに同情を誘うものがあるが、
それではあまりに多くのものが見えなくなってしまう。
その点、この本の書き方は全体的に見て公平で、読んでいて気持ちがいい。

内容が多岐にわたるので個々の詳細にまで責任は持てないが、
少なくとも僕の読んだ感じでは科学史的に忠実に書かれていると思う。
参考文献で挙がっている本が必ずしも科学史の専門書でないとは言え、
必要最低限のことはわかって書かれているという印象だ。
またもう一つ特筆すべきだと思うのは、これは単なるオムニバスではなくて、
全体を通読すると17世紀から20世紀初頭までがバランスよく見渡せるという点である。
文章もわかりやすいし翻訳もよいと思うし、大いにお勧めできる一冊になっている。

著者はニューヨーク・タイムズのサイエンス・コラムニストだそうだ。
日本でも近年、「科学コミュニケーション」ということが言われているが、
そういう人たちにはぜひ、現在の科学だけでなく科学の歴史も視野に入れてほしい。
科学史の専門家も一般向けにものを書く努力をすべきだとは思うけれど、
興味深く読ませる文章を書くには一種のスキル(と才能)がどうしても必要だ。
日本だと「ポピュラー科学史」を書いているのは科学者であることが多い気がするのだが、
この本の著者のような立場でこの手の本を書く人がいてもいい。
というより、そういうことのない限り、科学史はいつまでもマイナーなままではないだろうか。
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by ariga_phs | 2009-10-17 10:03 | 斜めから読む
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筆者プロフィール
有賀暢迪(1982年生)
科学史家。筑波在住。
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