川上弘美『神様 2011』講談社、2011.
※「神様」「神様2011」「あとがき」を収める
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「くまに誘われて散歩に出る。川原に行くのである。」
この書き出しから始まる川上弘美の短編『神様』は、
1993年に書かれた。デビュー作である。
僕が同名の短編集でこれを読んだのは、いつだったか。
たぶん5,6年前だろう、と思ったが、念のため確認してみた。
2007年の7月。4年前だった。
川上弘美の作品の中では『蛇を踏む』に次いで二番目になる。
『蛇を踏む』が奇譚なのに対して、『神様』のほうはそうでも
――いや、そうでもあるか。
だいたいからして、くまが「三つ隣の305号室に、つい最近越してきた」
なんてことはそうめったにあるまい。
そのうえ、「ちかごろの引越しには珍しく、引っ越し蕎麦を
同じ階の住人にふるま」ったりするのだからなおのこと。
その、「大時代なうえに理屈を好むとみた」くまと一緒に、川原に行く。
水田沿いの、舗装された道を歩く。
川原に着いて、昼ご飯を食べ、(くまが)魚をとって干物を作り、
「わたし」は昼寝をして、それで帰ってくる。それだけ。
日常の――いや、それが日常なのかと言われると困るが――
なんということはない時間の流れを、ゆるゆると描く。
そんな作品である。
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「くまに誘われて散歩に出る。川原に行くのである。」
この書き出しから始まる川上弘美の短編『神様 2011』は、
2011年の3月末に書かれた。ある意味、リメイクである。
僕が最後に川上弘美を読んだのは、いつだったか。
たぶん昨年だろう、と思ったが、念のため確認してみた。
2011年の2月。思ったよりは最近だった。
意外に未読だった『ニシノユキヒコの恋と冒険』を読んだのが最後になる。
『ニシノユキヒコの恋と冒険』も『神様 2011』も、どちらも少し不思議な日常を
――いや、そう言ってよいものだろうか。
だいたいからして、くまが「三つ隣の305号室に、つい最近越してきた」
なんてことはそうめったにあるまい。
そのうえ、「ちかごろの引越しには珍しく、引っ越し蕎麦を
このマンションに残っている三世帯の住人全員に
ふるま」ったりするのだからなおのこと。
その、「大時代なうえに理屈を好むとみた」くまと一緒に、川原に行く。
元水田沿いの、「震災による地割れがいつまでも残っていた」が
「少し前に完全に舗装がほどこされた」道を歩く。
川原に着いて、昼ご飯を食べ、(くまが)魚をとって干物を作り
――「食べないにしても、記念に形だけでもと思って」――、
「わたし」は昼寝をして、それで帰ってくる。それだけ。
ただ、
川原で防護服をつけた男に出くわしたり、
折にふれて線量を気にしたり、
部屋に入る前にガイガーカウンターで全身を計測したり、
「いつものように」寝る前に総被曝線量を計算したり、
といったことがあるくらいで。
日常の――いや、それが日常なのかと言われると困るが――
なんということはない時間の流れを、ゆるゆると描く。
そんな作品である。