今回調べに来たのは、18世紀後半にトリノで出版された
学術誌『トリノ論叢』。
そのうち4巻が東大の数理科学研究科図書室にあって
(全5巻のうち、なぜか第5巻だけ欠本)、
たぶん日本ではここにしかないと思われる。
この資料を見に来た理由は、いま研究の対象にしている
ラグランジュの原論文が、もともとこの雑誌に載ったものだからだ。
とは言っても、その論文自体は彼の『全集』に収録されているので、
もともとのバージョンを見たからどうということはあまりない。
(もっとも、『全集』での誤植等のチェックには役立つが。)
では何のためにわざわざ見に来たのかと言えば、
ラグランジュの論文自体ではなく、そのほかの論文が見たかったのだ。
特に、彼の力学理論の形成に影響したような、
今日知られていないような人物の論文があるのかもしれない、
と思ったわけである。
結論から言うと、そんなものは無かった。
『トリノ論叢』で力学を論じているのはラグランジュほぼ独りだった。
とてもがっかりしたが、同時に重要な結果だとも思う。
なぜならこのことは、ラグランジュがほとんど誰とも議論することなく、
独学で自分の力学を創ったことを強く示唆しているからだ。
したがって、彼の力学の形成をたどるには、
当時の著名な数学者たち(主にオイラーとダランベール)との
関係を調べる
だけでよいことになる。
もし、今回の調査の結果、無名の人物が浮上したりしていたら、
その影響を適切に評価するには相当苦労することになったはずだ。
だが僕としてはこの先、ラグランジュにこだわるつもりがない。
今回の結果は、全く面白くはないが、歓迎すべき結果だ。